202411
やむを得ない事故、起こるべきして惹起した事故
危険予知・経験による危険予測
事業用自動車による車両事故は、予見の難しい要因と、企業内部の管理不足から起こるものがあります。危険予知や経験による危険予測を活用する取り組みが必要で、安全運転を徹底するためには、運転手自身の危険予知能力が不可欠です。危険予知とは、運転中に遭遇する可能性のある危険を事前に察知し、対策を講じ得る能力を指します。これに関連する概念として、経験による危険予測が挙げられます。過去の経験を基に、リスクを想定できる能力のことです。
また、ハインリッヒの法則によれば、1つの重大事故の背後には29の軽微な事故と300のヒヤリハット(危険を感じた瞬間)が存在すると言われています。このことからも、小さな事故やヒヤリハットを適切に管理することが望まれますが、実際にヒヤリを経験しなくても、ヒヤリを予想する、情報を共有する環境下では、結果として大きな事故を防ぐ鍵となります。企業はこれらの情報を集めて分析し、運転手に研修を実施することで、事故の予防に努めなければなりません。
予見の難しいやむを得ない事故と起こるべくして惹起した事故
事業用自動車による事故は、企業にとって無視できないリスクの一つとなります。特に、賠償責任が発生する場合、その影響は事業運営に重大な打撃を与えることがあります。今回は、事故の要因を深く掘り下げ、「予見の難しいやむを得ない事故」と「起こるべくして惹起した事故」の違いについて考察します。
事故には、予見が難しい突発的なものと、予測可能な要因が重なり合って引き起こされるものが存在します。たとえば、急な悪天候や道路の突然の閉鎖など外的要因による事故は、事前に予測することが難しく、やむを得ない事故とされます。こうした場合、企業は適切な事後対応を行うことで社会的信用を維持することができる場合があります。
一方で、運転手の不適切な運転操作や不十分な安全確認、過労運転など、企業の内部管理の不備が原因で起こる事故は「起こるべくして惹起した事故」として扱われます。
この場合、企業はその責任を問われ、多くの場合賠償責任を負うことになります。
これが、企業の信用やブランドイメージに致命的な影響を与えることも少なくありません。
選択と行動
事故を他人事と軽んじていると、自己中心的な不安全な運転など、普段の言動にも表れます。
事業用自動車を運転する身として、交通弱者に限らず多くの車両が行きかう公道では、危険の予測を十分に行い、職業運転手として恥ずかしくない行動を選択してください。
お互いが譲り合えることが理想ですが、自分本位な人がいることも事実です。
自分本位な運転をする人がいるから、「じゃぁ、俺も」というのではなくて、そのような場面に出くわしたら、反面教師として自分を見つめ直す機会にしましょう。
一時の感情の起伏や、安全に対する意識の低い運転によって発生した起こるべくして惹起した事故の社会的な評価は厳しいものがあります。
動画による拡散もさることながら、危険運転等の要件に抵触することで運転者本人にも制裁があることを考えれば、一般ドライバーよりもより高度な知識と経験、心構えを以って運転をなし、職業運転手の中でも一段階も二段階も成熟した倫理観で模範となる運転を実践してください。
・4m4秒・発進前の周囲確認
・車線変更時の周囲の確認
・割り込み、急ブレーキ等の予測
・やるかやらないか
・やらない理由を作らない
・続けるか諦めるかという選択
企業は、運転手の教育訓練や安全管理を徹底し、事故を未然に防ぎ、社会的信頼を守っていくことが求められます。
長時間労働になりがちな職種ですが、理屈や情理を以って自制する気概が必要になってきます。
やって当たり前、出来て当たり前と、褒められるといったことが決して多くありません。
厳しいことを言います。
社会の中で経済活動をするのであるから、当然である。と多くの人が言うと思われます。
人よりも早く起きる。人が就寝している時間から働き出す。
規制によって緩和したと言っても超過勤務ありきの職業である。
決して楽な仕事ではないけれど、楽じゃないからこそ価値があるとも言えます。
人が簡単にできる仕事であれば、有難みも薄れます。
誰もが出来る仕事じゃないから、そこに誇りと信念をもって社会や家族に誇れる仕事にしていきましょう。
予測可能な要因の重なり
事故が発生するにあたって、様々な予測可能な要因が重なることがしばしばあります。例えば、業務を行う環境においては、十分な安全対策が取られていないケースや、従業員の教育が不十分であることが影響を及ぼすことがあります。これらの要因は、企業や組織が予見可能であった場合には、事故が発生した際にその責任を問われる可能性が高くなります。したがって、事故の発生を未然に防ぐためには、こうしたリスク要因を常に把握し、適切な対策を講じることが求められます。
業務上過失の構成要件
一方で、業務上の過失に関する法律的な要件も重要な要素です。業務上過失は、業務を行う際の必要な注意義務を怠った結果として事故が発生することを指します。この場合、過失の評価は、当該事故が発生した状況や、関連する法律に基づいて行われます。具体的には、被害者が受けた損害と、加害者の注意義務違反との因果関係が成立するかどうかが審査されます。もし加害者が通常期待される注意を払っていたならば、「やむを得ない事故」として扱われる可能性が高くなります。しかし、逆に過失が認められた場合には、責任を問われる結果となるでしょう。
労働契約における債務履行
さらに、労働契約においては、雇用者が従業員に対して一定の安全を保証する義務があります。この義務は、従業員が安全に業務を行うために必要な環境を提供することを含みますが、その反面、労働の対価としての賃金なのであるから、労働者は労働力を提供しなければなりません。その労働力が公序に反するもの、不法行為を目的とするものであれば、無効であると考えられますが、手を抜くと言いう意味でのいい加減なものまでをも期待しているとは到底考えられません。労働契約に基づいてその債務の本旨を満足させる労働力を提供すべきなのであって、もしこの義務が果たされていなかった場合、労働者は「債務不履行」としての責任を問われることになり得ます。使用者責任や報償の法則というものがありますが、労働者が故意、重過失でした事故までをも甘受すべきかという問題(*川村隆子著 無過失責任の一考察参照 )があります。
まとめ
責任の所在という観点も無視できないものではありますが、やむを得ない事故と、起こるべくして惹起した事故の違いは、事故が発生した背景や、関与した要因を十分に理解することで判断が可能です。予測可能な要因、業務上過失の構成要件、そして労働契約における債務履行の観点から、事故の原因を明確にし、再発防止に努めることが企業にとっての重要な責任となります。予防策を講じることで、事故による被害を最小限に抑え、従業員と顧客の安全を守ることも求められています。