健康起因事故と大動脈解離
2023.5
東京の心臓外科・心臓手術ならニューハート・ワタナベ国際病院 (newheart.jp)
前回の緑内障に続いて、今回は大動脈解離についてお話をしていきます。
このお話の専門的な情報の引用元ですが、東京にある医療法人ニューハート・ワタナベ国際病院様のHPに丁寧な記事が多数掲載されていましたので、そこから紹介させていただきました。
我々、トラックドライバーが罹患すると特に重大な疾病として大動脈解離も挙げられています。
脳梗塞や心筋梗塞など、急な発症とともに意識の喪失、生命の危険があり得るという、重篤な疾病です。
世の中の働き方改革しかり。
労働者自身、その御家族に限らず、様々な人への関わりは切り離せません。
他人事と思わずに、自分に置き換えて、自分だったらどうなるのか、家族にどういう負担を強いることになるのかといったことにも意識してお話を進めていきましょう。
言葉だけではわかりづらいところもあるでしょうし、聞くよりも読む方が情報収集という点では優れていますので、この話を聞いて「!?、よくわからない」という人がいましたらニューハート・ワタナベ国際病院のHPで確認されてください。
とても分かりやすく掲載されていますし、原因に対する対策についても言及があります。
また、お話の解釈の仕方、真偽等については誤解があるといけませんのでご自身でHP以外でも確認されることを強くお勧めいたします。
さて動脈解離と一言で言っても、乖離をしている箇所、併発している動脈瘤などによって初期の治療法も異なるそうですので、まずは簡単に。
大動脈解離とは、大動脈の血管壁になんらかの理由で亀裂が入り、そこから血管壁の中に血液が流れ込んで、本来の血液の流れ道とは別の、もうひとつの流れ道ができた状態です。
この血管壁の裂けた状態を解離と言います。
大動脈の血管壁は、内膜・中膜・外膜の三層構造になっています。血液の流れる側が内膜、外側が外膜、内膜と外膜の間にあるのが中膜です。
内膜が裂けると、その裂け目から血液が中膜に流れ込み、中膜が膨らみます。この膨らみを「偽腔[ぎくう]」(解離腔)と言い、本来の血液の通り道を「真腔」と言います
偽腔の外側には外膜しかないので、血圧に負けて外膜が破れ、血管の外に出血したら、致命的な事態を招くことになります。
偽腔は、血流の強い圧力に押され、血液の流れる方向に沿って、ある一定の長さに伸びてゆきます(つまり、解離が広がってゆきます)。偽腔を流れる血液は、流入した裂け目とは別の内膜の裂け目から、再び真腔に戻ります。真腔から偽腔への血液の入り口を「エントリー(流入口)」、偽腔から真腔への血液の戻り口を「リエントリー(流出口)」と呼びます。真腔と偽腔を隔てる血管壁(内膜・中膜)を「フラップ」と呼びます。
【偽腔開存型】
エントリーから流入した血液がリエントリーから流出しているタイプで、偽腔の中に血流がある状態です。
【ULP型】
エントリーから偽腔に突出する血流(これをULPと呼びます)は確認できるけれども、流入した血液はリエントリーから流出せず、ほとんどが血栓(血の塊)となっているタイプです。
【偽腔血栓閉塞型】
偽腔が血栓で完全に塞がっていて、血流がないタイプです。
偽腔がもたらす血流障害
偽腔ができることによって、本来の血流が阻害されます。
大動脈は、いろいろな臓器に血液を送るために、ところどころで枝分かれをしていますが、そうした分岐部に解離が及ぶと、偽腔が枝分かれした血管を塞ぎ、その先の臓器に血が流れにくくなってしまいます。また、大動脈自体も、偽腔が拡大すると本来の通り道である真腔が狭められ、血が流れにくくなってしまいます。
大動脈解離がもたらす危険
大動脈解離のもつ3つの病態が、それぞれ危険な状態を招きます。
【大動脈が膨れる(拡張)】
大動脈が膨れると、大動脈弁閉鎖不全症(心臓から大動脈に血液を送る弁が大動脈の拡張に伴い広がって、心臓の拡張期にきちんと閉じなくなり、血液が心臓に逆流してしまう病気)が起こることがあります。また、声帯を動かす反回神経が拡張したコブに圧迫されることで声がかすれたり(これを「嗄声[させい]」と言います)、嚥下[えんげ]障害(ものが飲み込みにくくなる状態)が起こったりもします。
【大動脈が破れる(破裂)】
大動脈が破れ血管外に出血すると、心タンポナーデ(心臓を包んでいる膜の中に出血したために、心臓が動けなくなる状態)が起こったり、血胸(胸腔内に血が溜まった状態)が起こったりします。大動脈が破裂すると、出血性のショックで急死する可能性が高まります。
【偽腔による圧迫で血が流れなくなる(血流障害)】
偽腔による圧迫で枝分かれした血管が塞がれ、各臓器に血液が届きにくくなると、狭心症、心筋梗塞、脳の虚血(虚血とは血が足らなくなること)、脳梗塞、腸管の虚血、腎不全、上肢の虚血、下肢の虚血、脊髄の虚血(症状としては対麻痺[ついまひ]=両側の下肢の運動麻痺)などが起こります。
l 大動脈解離が起こってすぐの時期は、強い血流を偽腔の薄い外膜のみで支えているために、きわめて破裂しやすい状態にあります。上行[じょうこう]大動脈(心臓を出てすぐの、心臓に近い大動脈)で解離が起こった場合、無治療で放置すると、1時間に1%ずつ死亡率が上がり、発症して48時間(2日間)以内に約半数の人が亡くなる、と言われています。男女ともに70代に最も多く発症すると言われていますが、40代や50代での発症も稀ではありません。
大動脈は、心臓を出てすぐは上方に向かいます。この上に向かう大動脈を「上行大動脈」と言います。ここからは、心筋(心臓の筋肉)に血液を送る冠動脈[かんどうみゃく]が分岐しています。
上行大動脈は、やがて弓状に弧を描いてUターンし、下行[かこう]します。この弓状の部分を「弓部[きゅうぶ]大動脈」と言います。ここには上方に3本の大きな分岐(腕頭[わんとう]動脈、左総頸[ひだりそうけい]動脈、左鎖骨下[ひだりさこつか]動脈)があり、それらを通して脳や左右の腕に血液が送られています。
弓部大動脈は、下行しながら心臓の後ろ側(背中側)に回り、下半身へと向かいます。この下行する大動脈のうち、横隔膜から上を「下行大動脈」、横隔膜から下を「腹部大動脈」と言います。また、上行大動脈、弓部大動脈、下行大動脈を総称して「胸部大動脈」と言います。
腹部大動脈からは、肝臓や胃腸、腎臓などの腹部臓器に向かう血管が枝分かれしています。
腹部大動脈は、臍の高さで左右の総腸骨[そうちょうこつ]動脈に分かれます。これらは、骨盤内の臓器や両足に血液を運ぶ役割を担っています。
大動脈解離の原因としては、動脈硬化、高血圧、高脂血症、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、喫煙、ストレス、特に高血圧は重要な危険因子です。
前兆 大動脈解離には前兆といえるものがなく、発症の予測はきわめて困難です。
万一、何の前触れもなく胸や背中に激痛が起こったら、迷わず救急車を呼んでください。
突然、胸や背中に激痛が走る病気で、様子を見ていて大丈夫なものはありません。一刻も早く医療機関を受診してください。
症状・痛み
大動脈解離の症状の一番の特徴は、突然、胸あるいは背中に杭が刺さるような激痛が走ることです。解離が進むにつれ、痛みが胸から腹、脚など、体のいろいろなところに移動する場合があります。
このほか、解離した場所や偽腔が血流をさえぎった場所によって、さまざまな症状が現われます。
【大動脈基部(心臓から出てすぐのところ)で解離が起こる】
基部の拡張につれ大動脈弁も拡張して、血液が逆流する大動脈弁閉鎖不全症となり、呼吸困難や急性心不全(心臓の機能低下)などが起こります。
【偽腔が冠動脈を塞ぐ】
狭心症や心筋梗塞が起こり、胸の痛みや圧迫感が生じ、急性心不全を引き起こします。
【偽腔が弓部から出る分枝血管を塞ぐ】
脳への血流がさえぎられ、意識が消失したり、麻痺が起こったりします。また、上肢への血流がさえぎられ、上肢の血圧に左右差が出たり、上肢に冷感が出たりします。
【偽腔が腹腔動脈や上・下腸管膜動脈を塞ぐ】
腸管への血流がさえぎられ、腹痛や腰痛、下血などが起こります。また、肝機能障害が起こります。
【偽腔が前脊髄動脈を塞ぐ】
脊髄への血流がさえぎられ、両側の下肢に運動麻痺(対麻痺)などが出ます。
【偽腔が腎動脈を塞ぐ】
腎臓への血流がさえぎられ、腎梗塞や腎不全を起こします。
手術で人工血管に置き換えたとしても、それ以外の血管のかなりの部分は、解離したままの状態で残っています。また、解離を起こしやすい体質もそのままなら、解離を呼ぶ生活習慣もすぐには変えられるものではありません。
したがって、この先、解離が拡大し破裂しないよう、日々の血圧の管理などが求められます。
以上のことから、発症をしていなかったとしても、生活習慣病、とりわけ高血圧には気をつけ、喫煙習慣についても考える必要がありそうです。
人間、年を取ればどこかしらに異常が出ても可笑しくはありませんが、敢えてわざわざ体を害する必要はなく、未成年者へのパターナリスティックな制約というお話をしたこともありましたが、成熟した私たちには自主性(自己決定権)が優先されて、制約というものがされにくい状況に置かれています。
何をするにも自己責任という、一見とても自由で恵まれた聞こえ方はするのですが、考えなしにその場限りの動物的本能的な安易な選択の結果が、自身とその家族、同僚、地域社会に与える影響を考えると、非難、誹謗に留まらず、刑罰、損害賠償をされることまで有り得る、ある意味重大な責任が伴っていることを決して忘れませんように。